【SEOテキスト】宇田雄一「古典物理学」う一つの誤解は、物理学の波及領域についての誤解です。物理学は意外と身近な問題に関わって来ます。普段当たり前だと思って使っている言葉も、その基礎付けを考えて行けば、物理学に行き着く場合があります。例えば原因(§2-1-6)という語。物理概念の触手は、貴方の知らぬ間に、実はすぐ側まで迫っているのです。したがって、「物理学だから関係ない」というのも早合点です。身近な話題とは言っても、本書に書いてあることは、直接日曜大工や料理で役立つものではありません。食卓で起こる現象の不思議を解き明かすものでもありません。社会問題や経済問題の解決策が書いてあるわけでもないし、個人的な人間関係のトラブルを防ぐ方法が書いてあるわけでもありません。ある程度物理学に近い、工業技術上の問題に対する解決すら全く扱っていません。要するに本書が扱うのは、実用的でない問題、直接は知的満足にのみ関わる問題です。実用的でない問題を、「そんなもの必要ない」と言って拒否する人をよく見かけますが、その人は自分自身を知らないのだと私は思います。例えば、地動説(§2-4-2)や生物の進化論、一般相対性理論の時空認識(§3-1-8§3-2-2)、これらは実用的でない知識ですが、必要ないとは言えないでしょう。地動説や進化論の名声を、当時の宗教上の特別な状況のせいばかりには出来ないと思います。役に立たなくても、その知識自体が必要な、そんな知識が確かにあると私は思っています。本書は、物理学を工業の手段としてのみ位置付けるのではなく、物理学自体を最終的な製品として提示する試みです。また、本書は直接は実用的な問題に触れていませんが、実用的な問題を考える人にインスピレイションを与える本になっていれば幸いです。本書に書いてあることを直訳式で安易に実用版に翻訳すると帰って弊害を招くことでしょう。しかし、十分賢い人が本書を見て、ニュートンがリンゴを見たときと同じようにして、私の想像を超えた素晴らしいアイデアを思い付くかもしれない。そうなれば結果は計り知れないと思います。他山の石。例えば法則(§2-1-1)と法律、自由度(§2-1-5)と自由、粒子交換対称性(§2-3-2)と平等のアナロジーは、法律を数学的に考えるヒントになるでしょう。法律に於いても原因という語は重要だし。政治的に決定されるべき事と学術的に究明されるべき事の区別は、恣意・自明・経験の区別(§4-4)と深い所でつながっています。作曲家や画家や作家、組織を率いる人や率いられる人にもインスピレイションを与える本になっていれば幸いです。あらゆる人に読んで欲しいからといって、本書はいわゆる通俗書で |