【SEOテキスト】宇田雄一「古典物理学」2-1-6因果律,因果律という言葉のもともとの意味は、@何事にも原因があるという法則のことだったようだが、物理学では、Aある時刻における世界の状態が正確に決まれば、それより後の時刻の状態も正確に決まるという考え方や、B原因が結果より後に起こることはないという考えを因果律と呼ぶ。初期条件を与えたときに運動方程式の解が一意的に決まるならば、Aの意味での因果律は保証されていることになる。従って、Aの意味での因果律を立証したことは、古典物理学の成果の一つだと見なされても、それは無理からぬ事だ。しかし、これには疑問の余地がある。例えば、F2,2の元fに対して、e2(f,0,m)という条件よりも遥かに弱い条件、例えば∀(i,k)∈3×2;[f(t,i,k)をt(4)についてテイラー級数展開できる]という条件だけを仮定しても、∀(i,k)∈3×2;∀n∈{0}∪N;[(∂4)nf(0,i,k)の値が与えられた]ならば、∀(t,i,k)∈N2,2;[f(t,i,k)の値は決まってしまう]のだ。この事態をどう捉えるべきか私は迷う。運動方程式の解が皆、テイラー級数展開できるとは限らないのだろうか。それともAの意味での因果律を保証するためには、運動方程式なんて必要ないのだろうか。ある時刻における世界の状態を、それより後の時刻の状態の原因と考えるとき、Aの意味での因果律が成り立てば、@の意味での因果律も成り立つことになる。私は、因果律の意味Aを少し広げて、ある時刻以前のすべての時刻における世界の状態が正確に決まれば、それより後の時刻の状態も正確に決まるという考え方だとする方が良いと思っている。旧意味Aの因果律が成り立てば、新意味Aの因果律は余裕で成り立つ。因果律のもともとの意味の一般性を保ったままで、その意味をもっと正確に理解するためには、原因という言葉の意味をはっきりさせておく必要がある。これから、原因という言葉の正確な定義を作って行くことにするが、その過程で、「一意的に」という語句の果たす役割を明らかにして行こうと思う。
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